適切な水分摂取は老廃物や毒素を排出するのに役立ちますが、過剰摂取には注意が必要です。水分の必要量は個人の健康状態・年齢・活動レベル・気候などによって異なるからなんですね。

特に腎疾患を抱えているひとは、適切な水分摂取量を知ることが重要です。東洋医学の視点から、腎をいたわる水分との付き合いかたをご紹介しましょう。

水と腎の関係|東洋医学の考えかた

腎は「水の司令塔」

東洋医学では、身体の中心となる臓を五臓六腑(ごぞうろっぷ)と呼びます。なかでも腎臓はただの「ろ過器官」ではなく、身体全体の水分調節の中心と考えられています。

腎は「先天の精(せんてんのせい):生まれつき持っている生命エネルギー」を蓄え、水分の代謝を担う重要な臓。腎の働きが弱まると水分代謝のバランスが崩れ、むくみや尿の異常などさまざまな不調につながるのです。

健康な成人の腎臓は1日に約180リットルもの血液をろ過しているので、腎の働きを助けるのが大切です。

水の巡りと腎の働き

腎は体内の水分を適切に調節しています。必要な分は身体に留め、余分な分を排出してくれるんですね。

東洋医学では「腎は水を司る」と表現されています。「腎の気:腎の持つエネルギー」が弱ると水の巡りが悪くなり、下半身のむくみや夜間頻尿などの症状が現れることも。

腎のエネルギーは30代から少しずつ減少し、40代に入ると影響が大きくなることが多いのです。更年期の強い不調を避けるためにも、腎の強化が大切といわれています。

現代人に増えている水滞

現代社会では、冷たい飲み物の過剰摂取や不規則な生活習慣により、「水滞(すいたい):余分な水分が身体のなかに滞った状態」と呼ばれる水分代謝の乱れが増えています。水滞の症状に心当たりがないでしょうか?

  • むくみ
  • だるさ
  • 立ちくらみ
  • 頭が重い
  • お腹をこわしやすい

日本人の約3割が水滞の状態にあるといわれ、腎機能低下のリスクを高める要因となっているのです。

不適切な水分摂取がもたらす腎への負担

過剰な水分摂取が腎臓を疲れさせる

いちどに大量の水を飲むと、腎臓に急激な負担がかかります。

腎臓は通常、1時間あたり約0.8〜1.0リットルの水を処理する能力があります。しかし腎機能が低下しているひとが1時間に500ml以上の水分をとると、腎臓のろ過能力を超えてしまい、体内の電解質バランスを崩す恐れがあるんですね。

体内の水分が細胞内に入り込み、細胞が膨張する原因となるのです。細胞の膨張は水滞の一部として現れ、身体にさまざまな影響を及ぼします。

水分不足は腎臓の砂漠化を招く

反対に水分が不足すると尿の濃縮が進み、腎臓内に老廃物が溜まりやすくなります。濃縮尿は身体に不要なものがたくさん含まれるので、腎臓に過度な負担をかけてしまうのです。

特に高齢者は喉の渇きを感じにくく、知らずしらずのうちに脱水状態に陥りがちです。軽度の脱水でも腎機能は最大20%低下するという研究結果もあります。

慢性的な軽度脱水は腎機能低下の進行を早めてしまうので、適度な水分補給がとても大切なんですね。

体質別に異なる水分との相性

東洋医学では体質を分類し、それぞれに合った水分摂取法があります。自分の体質にあった水分補給を心がけてくださいね。

  • 気虚(ききょ):疲れやすく元気がない
    温かい飲み物で身体を冷やさないように。エネルギーを補うためにスープがおすすめです。
  • 血虚(けっきょ):貧血気味で肌が乾燥しやすい
    血を補う食材(トマト・赤しそ・豆乳・ココアなど)を含む飲み物がおすすめ。十分な水分を摂取しましょう。
  • 陰虚(いんきょ):身体が熱く感じ乾燥しやすい
    冷たい飲み物は一時的に心地よく感じますが、長期的には「腎陰(腎が元々持っている冷やす力)」を弱める恐れがあります。冷たいもののとりすぎに注意しましょう。
  • 陽虚(ようきょ):寒がりで体温が低い
    温かい飲み物を多くとりましょう。身体を温める生姜やシナモンを加えるのがおすすめです。
  • 水滞(すいたい):体内に余分な水分が溜まりやすい
    水分摂取は控えめにし、温かい飲み物をこまめにとりましょう。
  • 気滞(きたい):ストレスや感情の影響を受けやすい
    香りのよいハーブティーはリラックス効果があります。ミント・カモミール・ジャスミン・レモングラスなどお好みのハーブを選んでみてください。

※飲み物に含まれる糖分や塩分にも注意してくださいね。

腎をいたわる賢い水分摂取の方法

体質別の理想的な水分量

一般的に成人の1日の水分摂取量は1.5〜2リットルが目安ですが、体質や季節、活動量によって調整が必要です。

  • 陰虚体質(ほてりやのぼせがある)は少量ずつこまめに
  • 陽虚体質(冷え性)は温かい飲み物を中心に1.5リットル程度
  • 気虚体質(疲れやすい)は食事と離して少量ずつ飲む

大きく分けた体質別にざっくり書いています。腎機能低下が心配なひとは、かかりつけ医と相談しながら適切な量を決めてくださいね。

腎に優しい水分摂取のゴールデンタイム

「腎経(じんけい):腎に関連するエネルギーの通り道」の活動が活発になる午後5時〜7時に温かい飲み物をとると、腎の働きを助けるとされています。腎のエネルギーが最も活発なこの時間に、腎を強化しましょう。冷たい飲み物を避け、身体を冷やさないよう注意してください。

就寝前2時間は水分摂取を控え、夜間頻尿を防ぎます。夜間は身体が休息する時間であり、腎臓も機能を保つために休ませる必要があるんですね。夜間頻尿が改善されると睡眠の質が向上し、腎臓もしっかり休息できます。

腎を支える飲み物は?

腎に優しく健康をサポートする飲み物をいくつかご紹介しますね。

  • 麦茶
  • ほうじ茶
  • 玄米茶
  • 乳酸菌飲料

リンやカリウムの含有量が少ないものをあげています。カフェインを含む飲み物や糖分の多い飲料、アルコールは腎に負担をかけるため、1日1杯程度に抑えるのが望ましいですね。

腎機能が低下しているひとは医師や栄養士に相談しながら、健康状態に合う飲料を選びましょう。

腎をいたわる水分摂取は量より「質とタイミング」

水分は「たくさん飲めばいい」というものではありません。あなたの体質や生活リズム、季節に合わせた水分との付き合いが大切なのです。

野菜や果物にも水分が含まれているので、食事からは栄養を含めた水分摂取が可能です。「身体によい」と聞くと一点集中しがちですが、摂取するものもバランスが大切。過剰摂取にならないようにしましょう。

水分摂取の仕方やタイミングで腎への影響が違ってきます。暑い日や運動後などは一気に飲みたくなりますが、こまめな水分補給がベストなんですね。

のどの渇きを感じる前に水分摂取すると脱水を防ぎ、腎への負担を軽減できますよ。尿の色が濃い場合は脱水の可能性があります。チェックしてみてください。

腎は「先天の精:生まれながらに持つ生命エネルギー」を蓄える大切な臓。あなたに合う水分摂取で、腎の働きを優しくサポートしましょう。腎機能維持のためのアドバイスもしております。お気軽にご相談くださいね。