
夏が近づくと熱中症が心配になりますね。高齢者や持病をお持ちの方、小さなお子様がいるご家庭では、暑さへの不安が日常生活に影響を与えることもあるでしょう。
当店では東洋医学の知恵を活かして、内側から暑さに負けない身体作りをサポートしています。正しい知識と適切な養生法で、安心して夏を過ごしましょう。
熱中症とは身体の「水」と「熱」のバランスが崩れた状態
現代医学からみた熱中症の仕組み
熱中症は、高温多湿な環境で身体の体温調節機能がうまく働かなくなった状態です。通常、わたしたちの身体は汗をかいたり血管を広げたりして体温を一定に保っていますが、暑い環境が続くと汗で失われる水分や塩分が多くなります。結果、血液中の電解質バランスが崩れてしまうのです。
症状は軽いものから重篤なものまでさまざまで、初期症状ではめまい・頭痛・吐き気などがみられます。重症になると意識障害や体温の異常上昇を引き起こすこともあるのです。
年間約6万人が熱中症で救急搬送されており、そのうち約65%が高齢者となっています。
東洋医学からみる熱中症の原因

東洋医学では熱中症を単なる体温上昇として捉えず、外的要因と内的要因の相互作用として理解します。
- 暑邪(しょじゃ):外的要因。外から入ってくる熱。体内の「気(エネルギー)」や「津液(しんえき)」を消耗させる
- 津液(しんえき)の不足:内的要因。身体を潤すための体液全般が不足した状態。現代医学でいう体液・血液・リンパ液に相当する
熱中症では「気血水」という身体を支える3つの要素のうち、水の不足と熱の蓄積が問題となります。暑い環境では身体の中に熱がこもりやすくなり、同時に汗として津液が失われるため、身体を冷やす力が弱くなってしまうのです。
年齢や体質による熱中症リスクの違い
年齢や体質により、熱中症になりやすいひともいます。
- 高齢者:体温調節機能が低下しているため暑さを感じにくく、体内に熱がこもりやすい。のどの渇きも感じにくくなる
- 乳幼児:内臓の働きが未発達なため体温調節機能が不安定。体重に対する体表面積が大きいため、温度変化の影響を受けやすい
- 肥満体質:皮下脂肪が多く身体の熱を逃がしにくいため、熱中症になりやすい
- 気虚(ききょ)体質:身体のエネルギーが不足した状態で、暑さに対する抵抗力が低下している
なぜ熱中症になりやすいのか 3つの根本原因

身体の熱を逃がす力が弱くなっている
現代人の多くはエアコンの効いた室内で過ごす時間が長く、自然に汗をかく機会が減っています。運動不足も重なり、本来備わっている発汗機能や体温調節能力が低下しているのです。
東洋医学では、適度に汗をかくことが健康維持に必要だと考えます。営衛調和(えいえちょうわ)という概念です。営衛とは身体の表面を守る防御機能のことで、適切な発汗により体温調節と同時に身体を外邪から守っているんですね。
現代の生活では、冷房に頼りすぎて自然な体温調節機能を使わないため、いざ暑い環境に置かれたときに身体がうまく対応できないのです。
水分の質と摂取タイミングを間違えている

「水分をたくさん摂れば熱中症は防げる」と思われがちですが、水分の質や摂りかたにポイントがあります。冷たいものばかり飲んでいると胃腸の働きが弱くなり、かえって水分の吸収が悪くなってしまうのです。
胃腸の働きを脾胃(ひい)と呼び、脾胃が弱くなると余分な水分が身体に溜まります。この状態が痰湿(たんしつ)です。痰湿があると必要な津液が全身に行き渡らず、熱中症のリスクが高まるのです。
のどが渇いてから水分を摂るのでは遅く、日頃からこまめな水分補給が必要です。特に高齢者はのどの渇きを感じる機能が低下しているため、意識的な水分摂取が重要なんですね。
ストレスや睡眠不足が身体の調節機能を乱している
現代社会特有のストレスや睡眠不足は、自律神経の働きを乱し、体温調節機能に悪影響を与えてしまいます。
- 肝気鬱結(かんきうっけつ)
ストレスにより感情や自律神経をコントロールする「肝」の働きが乱れると、血液循環や体温調節がうまくいかなくなる - 心腎不交(しんじんふこう)
睡眠不足から身体の陰陽バランスが崩れて体温調節能力が低下。心と腎の連携がうまくいかない状態で、不眠・動悸・ほてりなどの症状が現れる
安心して夏を過ごすための漢方的アプローチ

体質に合わせた水分補給
体質によって適切な水分補給方法は異なります。
〈陰虚体質(いんきょたいしつ)〉
のぼせやすい・手足のほてり・口が渇きやすいなどの特徴があります。身体を潤す力が不足しているため、常温の水やお茶をこまめに摂取しましょう。きゅうり・トマト・スイカなど身体を潤す食材もおすすめです。
〈湿熱体質(しつねつたいしつ)〉
身体に湿気と熱が溜まった状態で、むくみやすい・汗をかきやすい・口が粘るなどの症状が現れます。利尿作用のあるハトムギ茶や緑茶が適しています。
〈気虚体質(ききょたいしつ)〉
エネルギー不足のため疲れやすく、胃腸の機能が低下しやすい傾向にあります。温かい飲み物を中心に、少量ずつ頻繁に水分を摂りましょう。
日常でできる体温調節力を高める養生法

日常的な養生で、自然な体温調節機能を回復させましょう。
〈朝の軽い運動〉
営衛(えいえ)の循環を整え、適度な発汗により体温調節機能を鍛えます。ウォーキングやラジオ体操など、汗ばむ程度の運動を15〜20分続けるだけでも効果的です。
〈足湯〉
優れた養生法のひとつです。40〜42度のお湯に足首まで10〜15分浸かりましょう。血液循環が改善され、自律神経のバランスが整います。足湯により腎気(じんき)が補われ、体温調節機能の向上が期待できます。
※腎気(じんき):腎臓に関連するエネルギーや生命力を指す
腎精とは|生きるために必要な生命の源【五臓六腑から健康を学ぼう】
〈規則正しい睡眠〉
夜更かしは陰液(いんえき)を消耗し、翌日の体温調節能力を低下させます。陰液とは身体を潤し冷やす体液のことで、十分な睡眠により回復します。
熱中症予防に役立つ漢方薬と生薬茶
体質や症状に応じた漢方薬もおすすめです。選薬は必ず薬剤師に相談しましょう。
〈白虎湯(びゃっことう)〉
のどの渇きが強く、ほてりがある方に適した代表的な清熱剤(体内の過剰な熱を取り除くために使用される薬剤)です。
〈清暑益気湯(せいしょえっきとう)〉
暑さによる疲労感や食欲不振に用いられ、気虚体質の方の夏バテ予防に適しています。
〈生脈散(しょうみゃくさん)〉
汗のかきすぎによる体力消耗を回復させる処方で、高齢者の熱中症予防によく使われます。
※真夏に屋外で運動するとき(ゴルフ・テニス・部活動など)は、水・お茶・スポーツドリンクなどのペットボトルに一包入れるのがおすすめです。
〈手軽な生薬茶〉
- 麦門冬茶(ばくもんどうちゃ):身体を潤す
- 五味子茶(ごみしちゃ):汗の出すぎを抑える
どちらも優しい味で続けやすく、夏の養生茶として親しまれていますよ。
夏に向けて身体を整えましょう

ジメジメの梅雨があけると、いよいよ夏本番ですね。熱中症への不安は、正しい知識と適切な準備があれば軽減できますよ。
「今年は暑さが心配」
「家族の健康が気になる」
不安を抱えていらっしゃる方は、ぜひお気軽にご相談ください。一人ひとりの体質や生活スタイルに合わせて、最適な養生法をご提案します。東洋医学の知恵を活かして、安心して夏を過ごせるよう、全力でサポートしますよ!
身体の声に耳を傾け、無理をせず、自分らしいペースで夏を楽しみましょう。