腎機能の維持が気になるひとにとって、たんぱく質の摂取は悩ましい問題ですね。ご本人やご家族から「好きな食べ物を我慢するのがつらい」「栄養が足りているかわからない」「家族と違う食事を作る手間で疲れてしまう」という声をよく耳にします。

東洋医学の視点から、腎をいたわりながらも栄養バランスを整える食事の知恵をご紹介しましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。腎機能に問題がある場合は個々の状態に応じた食事管理が必要ですので、医師や栄養士に相談してください。

東洋医学が考える「腎」とたんぱく質の深い関係

腎は生命エネルギーの貯蔵庫

東洋医学では、腎は単なる臓器ではなく、生命力の源となる「腎精」を蓄える大切な場所と考えます。西洋医学の腎臓が血液をろ過する役割に対し、東洋医学の腎は成長・発育・生殖・老化をつかさどる根本的な生命力を管理するもの。

腎精は両親から受け継いだ先天の精(せんてんのせい)と、日々の食事から得られる後天の精(こうてんのせい)で構成されています。食べ物から摂取したたんぱく質は、後天の精を補充する重要な栄養素なのです。

西洋医学と東洋医学|腎臓観の違い

西洋医学では腎機能の数値(eGFRやクレアチニン値)で腎臓の状態を判断しますが、東洋医学では身体全体のバランスから腎の状態を読みとります。冷え性・むくみ・疲労感・白髪の増加・腰痛などは、すべて腎虚(腎の機能低下)のサインとして捉えるんですね。

たんぱく質制限する際も、数値だけでなく、個人の体質や症状に合わせた食材選びが重要になります。冷えやすい人と熱がこもりやすい人では、選ぶべき食材が変わってくるのです。

腎虚がたんぱく質代謝に与える影響

腎虚の状態は、食べ物を身体に必要な栄養に変える力が低下しています。消化吸収力が弱くなり、せっかく摂取したたんぱく質も十分に活用されないのです。体内の老廃物を排出する力も弱くなるため、たんぱく質を代謝してできる老廃物が身体にたまりやすくなります。

たんぱく質の量を減らすだけでなく、消化しやすい形で摂取し、腎の働きを支える食材と組み合わせることが大切です。

たんぱく質制限がうまくいかない根本原因

量ばかり気にして質を見落としている

多くのひとが「1日○○グラム以下」という数値にとらわれすぎています。摂取量の管理は重要ですが、同じ量でも食材の質や調理法によって身体への負担は大きく変わるのです。

たとえば同じ20グラムのたんぱく質でも、脂身の多い肉と白身魚では消化の負担がまったく違います。生のままと十分に加熱した食材でも、腎臓への負担は変わってくるのです。

東洋医学では「薬食同源」といって、食材そのものが薬になるという考えかたをしています。

身体の陰陽バランスが崩れて消化力が低下している

陰陽は、相反するが補完し合うふたつのエネルギー。健康な状態では両者が調和していますが、バランスが崩れると、どちらか一方が過剰または不足する状態になります。

現代人の多くは身体が冷えており、陰が過剰になっている傾向があるんですね。

  • 冷たい飲み物や生野菜の摂りすぎ
  • ストレス
  • 運動不足

身体が冷えると消化機能が低下し、少量のたんぱく質でも十分に消化吸収できなくなります。

忙しい生活で、消化に必要な酵素の分泌が不十分になっていることもあります。

  • 食事時間が不規則
  • 食生活の乱れ
  • 早食い

不適切な食事の積み重ねで、摂取したたんぱく質が身体の負担になってしまうのです。

食事への不安とストレスが腎を弱らせている

不安やストレスは、「気」の流れを悪くします。気の流れが悪くなると、腎の働きもさらに低下してしまいます。

  • なにを食べていいかわからない
  • 栄養の計算が面倒
  • 家族に迷惑をかけている

不安や焦りを感じることもあるでしょうが、ストレスは身体を緊張状態にして消化機能を低下させます。リラックスして食事を楽しむのが、腎の養生にとって非常に重要なんですね。

腎機能を守りながら栄養を満たす賢いたんぱく質活用法

腎を補強する食材選びのポイント

アミノ酸スコア100の食品で、良質なたんぱく質をとりましょう。

  • いも類
    さつまいも・里芋
  • 肉類
    鶏もも・ささみ・豚ひれ・豚もも
  • 魚類
    まぐろ・さんま・ぶり
  • 卵黄
    うずら・鶏卵

※アミノ酸スコア100とは
アミノ酸スコアは、食品に含まれる必須アミノ酸のバランスを示す指標です。「スコアが100=すべての必須アミノ酸が必要量を満たしている」ことを意味します

色の濃い食材を選ぶ

腎を補強するとされる食材をご紹介しましょう。

  • 黒い食材
    黒豆・黒ごま・黒きくらげなど
  • たんぱく質源として
    豆類:黒豆・小豆など
    黒い魚:さば・いわしなど

温性の食材を優先する

身体を温める性質のある食材は消化を助け、腎の働きを支えます。

  • 腎を補う温性食材
    くるみ・栗・山芋・カボチャなど
  • 温性のたんぱく質源
    鶏肉・羊肉・えび・鮭など

質のよい食材を選ぶ

固い肉よりひき肉や魚のすり身の方が消化の負担が少なくなります。発酵食品である味噌や納豆はすでに分解が進んでいるため、腎臓への負担を軽減できますよ。

消化負担を軽くする調理のコツ

水分を多めに使う調理

煮る・蒸す・スープにするなどの調理法は、たんぱく質を柔らかくして消化しやすくします。1日の水分摂取量に制限がある場合は、調理に使った水分も含めて計算してください。

香辛料を活用する

しょうが・にんにく・ねぎ・しそなどは消化を助け、身体を温める作用があります。ただし、唐辛子など刺激の強いものは腎に負担をかけるため避けましょう。

調理時間を長めにとる

じっくり時間をかけて加熱すると、たんぱく質が分解されて消化しやすくなります。圧力鍋を使えば短時間で同様の効果が得られますよ。

食べ合わせと時間で効率よく栄養を吸収する

消化を助ける食材を組み合わせる

たんぱく質と一緒に消化酵素を含む野菜を摂取すると、たんぱく質の消化吸収が改善されます。大根おろし・山芋・キャベツなどは生で食べるのがおすすめです。

たんぱく質摂取のゴールデンタイム

腎の働きが最も活発になる17時から19時の間にたんぱく質を摂取するのが理想的とされています。夜遅い時間の摂取は腎臓に負担をかけるため避けましょう。

※個人の生活リズムに合わせて調整することが大切です。

食事の量と回数を調整

可能であれば、1回の食事量を少なくして回数を増やす方法も効果的です。1日3回の食事を4〜5回に分けると、1回あたりの消化負担を軽減できるんですね。1日の総摂取量は医師の指導に従って管理しましょう。

身体に合う食べかたを見つけるのが大切

たんぱく質制限と聞くと「我慢」や「制限」という言葉が頭に浮かびますが、本当に大切なのは自分の身体に合う食べかたを見つけることです。

数値だけに振り回されず、食後の体調や体力の変化に意識を向けてください。疲れにくくなった、むくみが減った、よく眠れるようになったなど、身体からのサインを大切にしましょう。

当店では、質と量のバランスを整えながら毎日の食事を楽しんでいただけるよう、サポートいたします。消化吸収を助ける漢方相談も承っています。健やかな腎を育てる食生活を、一緒に築いていきましょう。

ひとりで悩まず、ぜひお気軽にご相談くださいね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。腎機能に問題がある場合は個々の状態に応じた食事管理が必要ですので、医師や栄養士に相談してください。